2009年06月07日

「ガマの油」 (ファントム・フィルムほか)役所広司流の人間賛歌

「ガマの油」 (ファントム・フィルムほか)役所広司流の人間賛歌

 クリント・イーストウッドを持ち出すまでもなく、俳優なら一度は監督業に手を染めたくなるものらしい。大仕事に歯がたたず、あえなく退散となる場合も多いが、役所広司は違った。彼の持ち味を十分生かした脚本通り、人間くさくて味わい深い独自の世界を構築している。

 「ガマの油売り」のエピソードは役所の幼い頃の記憶が基になっている。ガマの脂汗から作られたといわれる怪しい薬より、「さあて、お立ち会い」というおじさんの口上が忘れられないという。それは天上からいつも自分を見守ってくれる守護天使のようなものか。

 主人公はパソコン相手に株の売買で稼ぐデイトレーダー。このほら吹きでわがままし放題の父親(役所=写真手前)が息子(瑛太=同奥)の事故死をきっかけにどう変わっていったか。

 やや粗っぽい前半の筋立てから一転して密度の濃い演出を見せるのが後半に用意された心の旅。在りし日の息子を思う父親の複雑な心境に、魂の不滅を信じる独特の死生観を重ね合わせ、優しさと温かさに包まれた滑稽で哀しい異色のファンタジーに仕立てた。

 一見現実離れしたポップアートのような描写に戸惑いはするが、次第に緊密な父子関係に焦点を絞り込み、やがて生死の境を超えて生き続ける人間賛歌の境地に至る鮮やかな幕切れ。

 撮影監督・栗田豊通の切れ味鋭い映像美に加えて、俳優たちから温もりのある演技を引き出す役所演出が冴える。俳優出身の監督ならではの心配りが随所に息づいている。2時間11分。丸の内TOEIなど。(映画評論家・土屋好生)

(2009年6月5日 読売新聞)


posted by シネマっ子 at 03:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | 『ガマの油』(2009.6.6)
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